「壱百年あまりの乱世の中で、
父上は唯一の勝利者でございますね」

玉座に座った私に対し、子上は恭しく、
だが身内特有の甘えの残った態度でそう言った。


そうだ。分かれた天は、
ようやくひとつに纏まろうとしている。
諸葛孔明よ、私はようやくお前にひとつ勝ったようだ。
お前が三つに分けた天は、この私が、
ひとつにしてやったぞ。



しかし──自分の手で成し遂げたというのに、
どうにも現実感がなかった。
私は…いや、私の兄も、父も、祖父も
友人も政敵も、まわりの人間すべて、
乱世の中のみで生きてきた。

誰もが目指した"平安の世"というものが、
どういうものなのか想像もつかない。

目を閉じ、夢想してみる。
平安。それは一体なにか。


たとえば、いくら世の中が荒れていても、
そばに愛する人がいて、
幸せな一日が送れたとしたら、
それは平安ではないのか。

たとえば、どんなに世の中が平和でも、
身近に悩みの種があり、一日悶々として
いるなら、それは平穏とは
言えないのではないだろうか。




「父上は、国家を統一なされた暁には 最初になにを致しますか?」
息子が言った。

「子上、母上を覚えているか」
私は言った。

息子は一瞬目を丸くしたが、私は言葉を続けた。
「母上は──春華は、とてもよい女性で、妻だった。
私がまだ青学生だったころからずっと一緒にいた・・・」




「父上?」








「私の望みはな、子上。
春華と同じ墓で眠ることだよ」



















06,08,05のTOP&INDEX絵でした。

おでこがひろい…