最初に、左腕がなくなりました。 私はいつも、そこに立ち尽くしていました。 何をすればいいのか 解ったふりをして、迷わないふりをして、 理由を他の誰かに委ねていました。 そして、足がなくなりました。 自分の放ったことだまを、ずっとずっと聴いていました。 ことだまを聴くことで、周りの音が私に届かなくなりました。 自分はひとりきりなのだと、思い込むようになりました。 そして、耳がなくなりました。 いつわりで身体を覆うのに、いつか疲れてきました。 全ての人間が、自分の正義を振りかざして生きているのだと知った時から、 持ち上げられ、突き落とし、空に浮き、地に這い蹲るのに、意味を感じなくなりました。 そして、口がなくなりました。 最後にのこった瞳で、私は ずっと自分自身を見つめていました。 ──天下三分 ── それは私のことだまでした。 私の唱えた言葉の中で、最も大きく、最も小さいものでした。 私の唱えた言葉の中で、最も美しく、最も愚かなものでした。 私の唱えたことだまは、私の身体を離れ 一人で遥かまで成長しました。 私がのぞんだ天地とは、何もかもが変わっていました。 私は、一歩進むたびに疲れて立ち止まっていました。 この広い大地と空に、私の一歩はあまりにも小さすぎました。 いくら進んでも、いくら進んだつもりでも、天の終わりは姿を見せてはくれませんでした。 ──遠き蒼天 極みはいずこ── 私は 見えない天を見るために、瞼を閉じました。 いつものように、闇が訪れました。 ちらちらと、瞼の中で光が輝き、まるで夜の空のように見えました。 蒼天の果ては見えなかったけれど、 暗天の果ては、私自身の中にありました。 誰かに伝えようと、私は声を出そうとしました。 しかし、私はずっと昔に口をなくしていたことに、気付きました。 声のかわりに、私は 最後残った瞳から、一粒 涙を流していました。 そして、瞳がなくなりました。 |