ある日の英雄CMを見る



先日、バーガーショップに立ち寄ってから、セフィロスは色々な人から、
色々な物を貰うようになりました。

マグカップだったり、絵皿だったり、名刺入れだったりしますが、
どれもこれも先日バーガーショップで見た、だらけたクマの模様です。
どうやらザックスとアンジールが、ソルジャー達に喋ったようです。
少々気まずいものの、部屋がクマ達で埋まっていくのは悪くありません。

そして2ndや3rd達からも話しかけてもらえるようになりました。
今まで恐がられていたので、ちょっぴり進歩です。

ファンクラブから届けられる物も、今まで見向きもしませんでしたが、
最近では中身をチェックするようになりました。
まだまだ、セフィロスには必要性を感じない香水やブランドの服等が送られてきますが、
時折クマのグッズが入っているのです。
今フロ場にあるクマの形をした洗面器は、ファンから送られてきたクマグッズで、
最近のお気に入りです。

しかし実は、もともとアンジールが使えそうな物はちゃんと分けていて、
使えそうも無いものは換金しに行ってくれていました。
なので実際は、アンジールに仕分けを頼むだけでした。

昨日、ザックスがプレミアムファンクラブのメールとやらで、紹介されていたと言っていたので、
これからクマのプレゼントが増えるんじゃないかと、少々楽しみです。




そんなある日のこと。




セフィロスは自室で、することもないので、
ダラダラとテレビを見ながらアンジールがご飯を作ってくれるのを待っていました。

アンジールの自室にも台所はありますが、使わないのはもったいないと、
最近ではもっぱらセフィロスの部屋で料理していました。
もちろん、お互い任務がないときだけですが。

そして料理に関しては、セフィロスと同レベルのザックスとジェネシスも、
時折アンジールの料理を狙って現われます。
しかし、今日は二人とも任務らしく、珍しく二人だけです。


「セフィロス!飯、出来たぞ!机に足を乗せるなっていつも言ってるだろう。」
「ああ、そうだったか。」


料理を持ってきたアンジールは、セフィロスの姿勢に眉をしかめ、
また料理を取りに行きました。
セフィロスが足を降ろして、ぼーっとしていると、その頭に何かがばしりと当たりました。
手に取ってみれば、机を拭くための布巾のようです。

「運びもしないなら、自分が足を乗せた机ぐらい拭け。」

台所のアンジールが投げ付けたようですが、
そんなものかと言われた通りざっと机の上を拭きました。

「さ、全部持ってきたぞ。今日はデザートもあるからな。」

それまでにはアイツも帰ってくるだろと、アンジールが呟きますが、
セフィロスはまったく気付きません。目の前の料理に、釘づけだったのです。

本日のメニューは、自家製らしいタレで焼かれた焼き豚がのったサラダと、
一口大の野菜を串に刺して煮込んだものと、
たっぷりのアンチョビとチーズが乗ったピザでした。
グラスに注がれたシャンパンが、さらに食欲引き立たせます。

「あんまり食べるのが上手くないからな。お前は。毎回メニュー決めるのも、一苦労だよ。」
アンジールは苦笑しながら、グラスを持って差し出します。

「悪いな。料理という形であまり摂取してなかったんでな。」
セフィロスも自分のグラスを持ち、チンとグラスを合わせました。

食事に摂取という言葉を使うセフィロスに、
アンジールはちょっぴり切なくなりましたが、顔には出しませんでした。

そしていつも通り他愛のない、主にザックスの失敗談で盛り上がりながら、食事が進んでいきます。
子犬の様に何かしら小さな事件を起こすザックスの話はつきません。

アンジールがあまりにも面白おかしく話すので、
思わず噴出しそうになったセフィロスは、思わず口を押さえて横を向きました。
横を向くとテレビが付けっぱなしになっており、
セフィロスは流れている映像に思わず体を乗り出しました。

「わっ!い、いきなりどうしたんだ?」
普段冷静なセフィロスの態度に、驚いてテレビを見れば、
例のクマが女性と車に乗っているCMでした。

「あー、そういえば最近この車のCMはこのクマだったか。
セフィロスはテレビを普段見ないから、始めて見たんだな。」
うんうんと、アンジールが納得して頷いていると、セフィロスが何かを呟きました。

「ん?何だって?」
聞き取れなかったアンジールは、迂闊にも聞き返してしまいました。

「アレが欲しい…。」

「あ?車か?まぁ、運転する時間はないかもしれんが、欲しければ買えばいいんじゃないか?」
珍しいこともあったもんだと、思いながらも勧めてやると、なぜか思いっきり首を横に振られました。

「違う!俺が欲しいのは車じゃない!クマだっ!!」

「はっ?!」

アンジールは、眼が点になりましたが、セフィロスは構わずに熱く語りだします。

「あんな女が傍にいるなんてずるいじゃないか!俺だって飼いたいのにっ!!」

「おいおい…、アレはCGだぞ…。本当にいるわけじゃないんだ。」

「何でだ?!さっきの女は喋ってたじゃないか?!そもそもCGってなんだ?!」

アンジールは頭を抱えました。
うっかりしてましたが、セフィロスは任務の事以外は、からっきし何も分からないのです。

「CGってのはだなぁー……。何ていうか、作り物なんだよ。そのなんだ。
実際にはない物を作って、後からデータだけをはめ込んでるっていうか………。」

「だから作ってるんだろう?作られてるんだから、それを買えばいいだけじゃないか。」

セフィロスが分かるように説明するのはどうしたものかと、アンジールは頭を抱えます。

「あー…、訓練室のモンスターは実物じゃなくてデータだろ。そんな感じだ。」
これならセフィロスでも分かるだろうと、思ったのですが…。

「そうか。なら宝条博士なら作れるな。自室で再現が出来ればいいからな。今から行ってくる。」

「えっ!おいっ?セ、セフィロスッ!」
勘違いをしたセフィロスは、アンジールの制止も聞かずに、部屋を出ていってしまいました。

「……俺じゃ止められないか……。」
部屋にはがっくりと肩を落とすアンジールと、きっちり空になった皿だけが残されました。





数十分後、アンジールが一人でデザートを食べているところにジェネシスがやってきました。

「お疲れ。」

「あぁ。それより、空の皿があるなら何か食べるものがあるんだろ。」
言外に用意しろというジェネシスに、アンジールははいはいと台所に立ちました。

ことりとジェネシスの前に置かれた皿の上には、アンジールお手製のアップルパイ。
「セ、セフィロスは食べたのか!」
慌ててアンジールに確認しますが、アンジールは渋い顔で手を振りました。

「食べる前に用事で部屋からでてったよ。しばらく帰ってこないだろうさ。
ったく、なんでこう毎回毎回タイミングが悪いんだ…?」
アンジールも残念そうにぶつぶつ呟きますが、
ジェネシスはがっくりとまたかと、肩を落としました。


その後、セフィロスに依頼された宝条博士が、色々勘違いをして
新たな召喚獣にするために戦闘能力をつけようとしたのですが、
それに気付いたアンジールが慌てて止めたので、製作が中止されました。

そして臍を曲げた博士は、ただの愛玩用なら都市開発機構だろと、
リーブに製作を押しつけ、とあるロボット製作が本格的に始まったのは別のお話。






---  お し ま い  ---



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